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『まんがで読む源氏物語』

子ども向けの『源氏物語』をもう1冊、正編のみのダイジェスト版です。

 『学研まんが 日本の古典 まんがで読む源氏物語』
 監修/小川陽子、シナリオ・コラム/鈴木瑞穂
 まんが/七輝翼、くろにゃこ。、藤森カンナ
 (学研プラス、2014年)

最近の学習漫画は、絵柄は少女漫画風で華やかです。
帯封に、「愛を追い求めた源氏の君の一生
小学生から読める! はなやかな平安貴族の物語!!」とあります。
10歳まで、よりはやはり少し大人っぽいような、中身も重厚な感じです。
冒頭から若紫巻の途中までは、カラーの漫画。
気になったのは、冒頭、光君が藤壺に桜の枝を見せるシーン。
「今年一番に咲いたものを持って来たんです」
藤壺に花を持っていって見せる、のは『あさきゆめみし』の影響かしら。

Tag:源氏物語・古典文学 

『10歳までに読みたい日本名作』の「姫君、若紫の語るお話」

さて、子ども向けの『源氏物語』を入手しました。
「10歳までに読みたい日本名作」シリーズ(学研プラス)のうちの、1冊。

 原作/紫式部、文/石井睦美、絵/佐々木メエ、監修/加藤康子
 『10歳までに読みたい日本名作 第12巻
 源氏物語 姫君、若紫の語るお話』(学研プラス、2018年)

帯封には、「美しく、やさしい源氏の君の物語」とあります。
タイトルからわかるように、まだ幼い紫の上が語る体裁のダイジェストです。

 これで、わたしのお話はおしまいです。
 でも、これ、ひみつのお話よ。
 だれかに教えてはだめですからね。
 なぜって、このお話の中の人たちのことを、いったいだれのことかと、
 さがしあてる人がいたらこまるからです。

かわいらしい挿絵とともに、10歳でも、物語の世界に分け入っていくことができる。
あとがきには、名作は、「あなたの一生の宝物」です、と書かれています。

Tag:源氏物語・古典文学 

敬二=徳冨蘆花の嘘

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、兄はやはり、又雄=時雄の手紙を見ていました。
蚊帳に入った敬二=徳冨蘆花に、隣の部屋に寝ている兄から、
という微妙な距離感が、何やらリアルです。

 其夜敬二が父母の蚊●(帳)に寢て居ると、
 一間隔てゝ次の六疊に寢て居る兄が敬二に聲をかけた。
 『今日能勢が卿(ぬし)に非常に怒つた手紙をやつたが、あら何かい』
 敬二は退引(のつぴき)ならぬ場合に置かれた。
 然し彼は眞直に事實を白狀する勇氣がなかつた。
 彼は死んだお稲さんに一人の妹がある事を語りはじめた。
 其妹は一寸才女であることを云ひ添へた。
 
壽代=久栄が「一寸才女である」と言い添えるとは、気が利いています。
当時、女学校に行っているというだけで「才女」とは言えるでしょうか。

 敬二自身去年の夏能勢家で甲斐〃〃しく働いたので、
 山下の婆さんはじめ一同の信用を博した事を話した。
 敬二を養子にもらひたい、と云ふ議があつたことを話した。
 黑田のおくらと云ふ根性惡の婆さん
 ーー其婆さんは孫娘を敬二にやりたがつて居るーーと、
 從弟の次平ーー彼自身壽代さんに失戀したーーが色々云ひこむで、
 又雄さんは敬二を惡く思ふ様になつたと云ふた。
 結局、黑田婆と次平さんは腹黑、又雄さんは不明、
 敬二は罪もない犠牲と云ふ色に彩られて話は終つた。
 壽代さんとの間に取交はした第一の約束、第二の契約については、
 敬二は到頭何も云はずにしまつた。

敬二=徳冨蘆花は、大まかな筋としては、殆ど真実を打ち明けたのでしょう。
「核」になる、肝心の「第一の約束、第二の契約」をのぞいては……。
黑田のおくら=窪田うらは、すっかり悪役として語られたのです。

 聞き終ると、
 『よく卿の様なもんば養子に貰ふてち云ふな』
 と兄が云ふた。すると、母が
 『好(よか)養子男だもん』
 と云つて、某々から敬二をもらひたいと云ふた事を挙げた。
 評判の好い兄の弟と云ふので、其様な口もかゝつて居たのであつた。
 父は寢入つたのか、一言も云はなかつた。
 敬二は吻(ほつ)と息をついた。
 事實の核を蔵(かく)しても、兎に角半分の話は済んだ。
 事實を打明け賛可を求むるに惜しい機會だが、とは思ひつゝ、
 敬二はまた詐(うそ)をついて了つた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

ここで「約束」や「契約」まで話してしまえば、家族の「賛可」を得る機会。
そうであるとはいえ、そこまではできずに、また嘘をついてしまう。
それにしても、兄の評判ゆえに敬二=徳冨蘆花に婿養子の話があったとは。

余談
「この世界の片隅に」、養女に迎えた孤児が「節子」なのは、
同じく広島の孤児を描いた「蛍の墓」の「節子」からの名づけなのだろう。
アニメのエンディングを見ると、すずと径子の2人を母と慕っているような印象。
ドラマでは、径子と久夫の間に手紙のやりとりがある。
広島カープの設立の経緯からして、最後に出てきたのはよかった。
(カープ設立の物語、どこかがドラマ化しないのかと以前から思っている。)
「広島、がんばりんさいよ」というラストは、豪雨災害からの復興への思いも。
安室奈美恵さんの引退、樹木希林さんの死が重なった。
若く余力のあるうちに引退した彼女と、最後の最後まで女優を貫いた彼女と。

Tag:山本久栄 

敬二=徳冨蘆花、「最後の決心」を求められる

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、敬二=徳冨蘆花のもとに、
又雄=時雄からの手紙が、そっと残されていました。

 明日は房州へ出立と云ふ日の午後、外から歸つて見ると、
 敬二の座ときめた父の居間の東の小窓の下の机に
 封筒もない手紙がのつて居る。
 又雄さんの手跡だ。
 びくりとして、披(ひら)いて見ると、
 烈しく敬二の懦弱(だじやく)を責めて、最後の決心を促した手紙だ。
 敬二は冷やりした。
 此様な手紙を開封でよこして……屹度見られたに違ひない。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

又雄=時雄は、「最後の決心」を敬二=徳冨蘆花に求めています。
封筒に入っていない、むきだしの手紙は、父母や兄に読まれたにちがいない。
いや、又雄=時雄は、そうなることを予想、期待して置いたのでしょう。

Tag:山本久栄 

西片町

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、敬二=徳冨蘆花は又雄=時雄に対応しない。
壽代=久栄と結婚することに反対だという意見を、聞く耳は持たなかった。

 敬二は又雄さんの親切を疑はなかつた。
 然し直ぐ其勸告に從ふことは如何しても出來なかつた。
 彼は能勢家にも往かず、又雄さんに手紙も出さなかつた。
 恰(ちやう)ど敬二は甥と、同年配の從弟を連れて、
 房州保田に海水浴に往くことになつて居た。
 敬二は又雄さんには左右の返事をせずして、
 房州に往つてしまはうと思ふた。
 然し房州行前に是非能勢家に挨拶に行けと父に云はれて、
 敬二は澁澁本郷の西片町に往つた。
 分かりにくい十番地を探して歩いて居ると、
 唯(と)有る巷路の曲り角でばつたり又雄さんに出會した。
 
江見=海老名弾正から本郷教会を引き継ぐ又雄=時雄は、
江見=海老名弾正の家族と同居して、西片町にいた。
海水浴に逃げてしまおうとしていた敬二=徳冨蘆花も、父の命には背けない。

 又雄さんは歡喜の色を見せて
 『あ、敬さん、俺に要があつて來なはつたか』と云ふた。
 敬二は差俯いて『否』と答へた。
 又雄さんは失望の色を見せて、『それぢや』と往つて了ふた。
 敬二は江見さんと同居の能勢家をやつと探し當てゝ、
 叔母さんに挨拶して直ぐ歸つた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

でも、敬二=徳冨蘆花は、又雄=時雄に向き合おうとはしませんでした。
叔母=横井津世子にだけ挨拶をして、さっさと帰ってしまいます。
ところが、帰宅してみると、又雄=時雄からの手紙が届いていたのです。

Tag:山本久栄 

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