2015
01.31

白蓮と大江スミ

Category: 村岡花子
「ある田舎の金持ちの息子」と見合いをした白蓮、周囲は結納の日取りまで相談。
これでは最初の結婚の失敗の繰り返しだ、と慌てた白蓮は、思い切った行動に出ます。
幼いころを過ごした品川へ、乳母の庇護を求めて逃げたのです。
ところが、懐かしい「かあや」はすでに亡くなっていました。
白蓮は、『現代婦人伝』(昭和15(1940)年、中央公論社)で書いています。

 私は、昔の記憶を辿りながら、ようやく品川の乳母の家を探しあてました。
 乳母のおくには、私の知らない間になくなっていましたが、
 家の人たちが、それは親切にかくまってくれました。
 やがて、使いの者がきて、私は連れ戻されましたが、しかし、
 この捨鉢な抗議が、対面を重んずる人達に案外きいて、かえって、
 学校へはいりたいという私の希望が容れられる結果になったのでありました。
 私は、ここで家政学院の大江スミ子先生に感謝しなければなりません。
 以前、私の兄嫁花子の家庭教師をしておられた関係で、
 先生の母校である麻布鳥居坂の東洋英和女学校に、
 この傷ついた女を紹介してくださったのです。
 もっとも、先生のお計らいで、未婚者として入学しましたが、
 キリストの教えを聞いているうちに、
 最初自分をいつわって入学したことが、苦しみの種になってきました。
 (『白蓮ー気高く、純粋に。時代を翔けた愛の生涯』河出書房新社、2014年)

兄、柳原義光の妻である花子は、海軍中将だった川村純義伯爵の次女。
姉の常子が樺山愛輔に嫁ぎ、その娘が白洲正子になります。
大江スミは、明治27(1894)年に東洋英和女学校を卒業し、母校で数学を教えて、
明治30(1897)年、女子高等師範学校に進学、卒業後は沖縄に赴任しました。
明治35(1902)年、文部省より家政学研究のための英国留学の命を受け、
帰国後、大正12(1923)年、東京家政学院の前身である家政研究所を設立します。
その間、帰国してから東洋英和女学校と女子高等師範学校で教えていた時期、
村岡花子も、大江スミから家政を学んだのだといいます。
大江スミも編集を担った、『東洋英和女学校五十年史』(昭和9(1934)年)によれば、
大江スミが教鞭をとったのは、明治26(1893)年、留学後の明治41(1908)年、
また、大正10(1921)年から大正13(1924)年9月まで、となっています。
白蓮が編入したのは明治41(1908)年、村岡花子が教えを受けたのもその時期か。
白蓮の自叙伝『荊棘の実』でも、同様の経緯で女学校に入ります。

 兄嫁の君子が、以前まだ里方にいた頃、
 君子についていた家庭教師の大山女史は、
 その昔芝のミッションスクールに学んで、その後外国へも留学してきて、
 今はある高等女学校の先生をしている人であった。
 その大山女史は今も熱心なキリスト教信者だった。
 こんなわけで君子は
 澄子の身の上の万事をこの人に打ち明けて相談をしたのである。
 「やっぱりキリスト教の教義によって立っている学校はようございますよ。
 なんといっても根底がありますから、先生だってお友達だって、
 それは皆親切なものでございますよ」
 澄子が初めて君子からこの大山女史を引き合わされた時、
 女史はこんなことをいった。
 そして自分の出身の芝のミッションスクールに澄子を世話してくれることになった。
 澄子は年来の希望がようやく今になって叶ったと思うと
 そのあまりにおそかったことが、残念に思えぬでもなかったが、
 とても見込みのないことと諦めていたことが、はしなくも急に成就した悦びを
 君子に対してどんなに感謝したかしれなかった。
 「それに見上げたところ大変お若くお見えになるじゃございませんか。
 お年も少しお若くそう申しておきましょう。
 もちろんまだどこへもお嫁(かた)づきになったことのない方だと申しておきます。
 そのほうがおよろしゅうございますから」
 (柳原白蓮『白蓮自叙伝 荊棘の実』河出書房新社、2014年)

作中で「君子」とあるのが花子、「大山女史」とあるのが大江スミにあたります。
白蓮と村岡花子の出会いの背後には、大江スミの配慮があったのでした。
自叙伝の中で、澄子(白蓮)が夫の山本(伊藤伝右衛門)に、
新家庭を持った喜びで、学校で習った西洋洗濯をやってみたい、と言い出す。
それは、大江スミに教えられたのかもしれません。

白蓮が、従姉妹にあたる清水谷房子に宛てた手紙に、
「天にも地にも凡そ姉ほどいゝ者は無いと思つて居ますのよ」と書いたように、
姉の信子(作中では「礼子」)は無論、兄嫁の花子をも信頼していたよう。
「君子」という義姉は、基本的には善良な、ときに白蓮を言いくるめる利口な女性で、
「花子とアン」の蓮子の義姉、葉山園子ほど悪役としては描かれません。
(ドラマでは、わかりやすく、類型的に造型していたのだと思います。)

余談
欧州選手権の男子シングル、ハビエル・フェルナンデスが3連覇。
女子シングルは、エリザベータ・トゥクタミシェワが逆転優勝。
エレーナ・ラジオノワが2位、アンナ・ポゴリラヤが3位とロシア勢が表彰台独占。
SP4位だったキーラ・コルピは、棄権してしまった模様。
エレーネ・ゲデバニシビリが最下位、とはいったい何があったのか。
国体の成年女子は、大庭雅が優勝、これが現役最後の試合の石川翔子が5位。
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