井上秀、「母性愛」の「擴大」を願う

井上秀の講演の後半は、いわゆる「良妻賢母」に関してです。
この講演が行われた、昭和7(1932)年という、微妙な時代性も影響しています。
また、話が進むと、単なる「良妻賢母」主義ではないことも窺えてきます。

 私共日本女子は日本の女性として十分に特色を發揮する様
 考へねばならぬ事と思ひます。
 私は今では家庭を持ち夫もあり子も居りますが
 他方公職を持つて居りまして
 殊に敎育には大部分の力を注いで居りまする様に、
 自分は妻として母としての本務の外に一方公に盡すので
 盡す道に两道はありますが根本は一つだと考へてゐます。
 皆様も同じ事で將來家庭を持ち妻として又母として立つべき人であります
 如何なる婦人も母として立つ特殊の能力を
 天から與へられてゐるといふ自覺を持つべきです。
 卽ちどんな人も母性愛を豊かに惠まれてゐると考へます。
 學問上男と異る特性を啓發して行けば
 そこに從來に見ることの出來なかつた方面の分野が開かれます。
 又その母性愛が社會の氣の毒な人に働けば同情心となり
 河井夫人のお話になりました同情忍苦の奉仕の徳ともなります。
 最近女子に自覺を促されますが、
 この自覺はその母性たる點に自覺すべく又培ふべきであります。
 更に進んでは自分自身の生んだ子をよく育てる事に満足するだけでは
 時代の進運に伴ふことは出來ません。
 卽ち母性愛は更に擴大して我祖國の子供をよく育てる事に及び、
 更に發展しては我人類の種屬を保護する活動に迄進むべきでありませう。
 今日は敎育事業、社會事業、又國際的に働く女性もありますが
 何れも婦人の母たる徳を擴大したに過ぎません。
 自分の子を良くするといふ事にその人の働きが限られてゐるのは
 昭和の婦人ではありません。
 それは擴大して廣い意識の下に廣き世界に働きかける事が大切です。

女性はすべて、「母性愛を豊かに惠まれてゐる」という思想は古めかしい。
学問上も、その特性を生かしていけば、従来と異なる分野が開ける、と言います。
井上秀が主張しているのは、「昭和の婦人」の「母性愛」の「擴大」「發展」。
「自分の子を良くするといふ事にその人の働きが限られてゐる」のは、もう古典的。

 自分の子供より出發して村の子供、町の子供、
 日本全國の子供を良く敎育することは母性愛を擴大した事で
 母としての使命と考へられます。
 又兒童の教養、幼稚園、託兒所に力を注ぎ、
 我々の時代をよりよくする事により母性愛が圓熟します。
 そこ迄徹底せぬと自分の子供をよくする事は出來ませぬ。
 (春錦會・鴨沂會『創立六十周年記念誌(昭和7(1932)年)

自身の「母性愛」を「擴大」していくことは、「母の使命」であって、
そこまでしなければ、そもそも、「自分の子供をよりよくする事」もできない。
来たるべき太平洋戦争を前にした時代、なるほど、という論理です。
同時に、女性の特質を「擴大」し、社会をよくしていく、という考え方は、
女性が社会進出していくときに、近年もよく囁かれていた文法だな、と思います。

Tag:女子教育 

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