叔母の病気に感謝も……

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、能勢家=横井(伊勢)家を手伝ううちに、
敬二=徳冨蘆花と壽代=久栄の距離は、おのずと縮まっていったようです。
「壽代さんに對して兄妹の感じと態度をとらずには居られなかった」。

 二人が近く居る場合は多かつた。
 濡れたタヲルを壽代さんと二人で引張つて火鉢の上に乾かす時、
 壽代さんの淡褐色の頬は紅らみ、敬二の顏も彌(いや)が上にも火照つた。
 敬二が兩手で擴げて居る氷嚢に、壽代さんが氷のかけをつかむで入るゝ度に、
 軟らかな壽代さんの手は敬二の手に觸れて、電氣を敬二の全身に走らした。
 敬二が叔母さんの氷嚢を押へ、壽代さんが叔母さんの脚を摩つて居る時は、
 敬二は二人で叔母さんの介抱をして居る事を
 鮮明に意識せずに居られなかつた。
 其爲に叔母さんの病氣をすら感謝する氣にならずに居られなかつた。
 敬二は此狀態が永く續く事を願つた。
 其上を望む氣にはなれなかつた。

叔母さん=横井津世子の病のことを「感謝する氣」になるほどに、嬉しかった。
不謹慎のようではありますが、共同作業、それが本音なのでしょう。
異母姉を喪ったばかりの壽代=久栄も、その代わりに尽力していたようです。
しかし、「此狀態が永く續く事を願」いつつ、「其上を望む氣にはなれなかつた」。

 雪催ひの寒い土曜の午後、能勢家に往つた敬二は
 勝手の八疊の炬燵にあたゝまらうと立寄つた。
 誰も居ない、と思ふた炬燵の向ふから
 うとうとして居たらしい壽代さんがむくむく起き上つた。
 敬二は遽(あわ)てゝ飛びのいた。
 『遁げんかてえゝわ』
 洗つたと見えてちらしに下げて居た髪を振り振り壽代さんは
 媚の流るゝ茶色の眼を敬二に注いだ。
 『だつて、突然(だしぬけ)に人をびつくりさせるから』
 敬二は阿容(おめ)阿容と牽かれて壽代さんと差向ひに炬燵に入つた。
 壽代さんは女學校の話をはじめ、敎頭の長島さんが子自慢で、
 『吾家のは赤ン坊ぢやない、白いから白ン坊』と云つた事や、
 女學校に棲んで居る顰(しか)め猿のカーデーさんが、
 シヤヴルを持つて細君の流産児を埋めに往つた事を話した。
 カーデーさんは女學校の女敎師を戀して、強て結婚したのであつた。
 敬二が京都に着いた頃の事で、
 お稲さんは又雄さんの同窓から祝ひの贈物につき相談を受け、
 女敎師の心痛を話して、『本當に痩せなすつたわ』と云つて居た。 
 壽代さんは先きから先きと話の絲を繰り出した。
 炬燵の溫味(あたゝかみ)は頭に上つて、
 敬二はぼうつとした夢心地になつた。
 其處に奥から又雄さんが出て來て、
 炬燵の仲間に入つたので、敬二は惜しい様な氣がした。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

炬燵に入りながら、壽代=久栄は、かなりショッキングな話をしています。
協志社=同志社の女学校の教頭とは、松浦政泰でしょうか。
敬二=徳冨蘆花は、壽代=久栄とともに炬燵に入って「夢心地」でしたが、
そこに、又雄=時雄が加わったので、残念なことでした。

余談
「わろてんか」、今週になって、ぐんと面白くなった。
それは、これまで頼るばかりだった伊能に手をさしのべる積極的行動。
幼い飛鳥ちゃんが、「伊能さんのお嫁さんになりたい」なんて言ったけど、
独身の伊能さん、彼に片思いする女性すらもいない。
欲を言えば、伊能とてんの微妙な関係が描かれてもいいなぁ。
忠臣蔵と恋と忠義なら、武井咲さんの「忠臣蔵の恋」ね(再放送希望)。

Tag:山本久栄 

四季の花時計
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
FC2カウンター
プロフィール

もも

Author:もも

カレンダー
03 | 2018/04 | 05
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -
月別アーカイブ
最近のコメント
最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索