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横井津世子らの微妙な関係

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」にも、能勢家=横井(伊勢)家の複雑さが描かれ、
さらにお稲=みねの昇天、ちせ子=横井津世子の病臥によって、
また外部から黑田のおくらさん=窪田うらが入り込んだことで、均衡が崩れます。
かろうじて保たれていたバランスは、当然、もろかったのです。
複雑な環境は、前田河廣一郎『蘆花伝』(岩波書店、1938年)にも記されています。

 小楠先生の遺族は、やや複雑してゐた。
 母親があり、兄時明の未亡人きよがあり、
 そのほかに小楠部屋住み時代から『妾』のやうにしてゐた
 田上壽賀といふ召使ひがあり、それにつせ子と、
 遺兒の時雄、みや子とがあつた。
 いはば四人の嬬(やもめ)が、原始民族の家族のやうに母性系政治を敷いて、
 財産である『家名』を守つてゐたのである。
 その一人一人が、いづれも一癖も二癖もある『尼將軍』であり、
 ひと廉の烈婦であり、貞女でもあるのであるから、
 摩擦もさぞかし激しかつたことと思はれる。
 幸か不幸か、そこには爭ふべき物質的な財産がなかつたのである。
 この四人の婦人達のあひだには、母、嫂、つせ子、
 壽賀女といふ風に嚴格な封建的等級があつて、
 嫂の子の左平太、太平がなくなつてから、
 時雄とみや子の成育を中心に横井家の家名は持續されてゐた。

横井小楠の妻であった津世子、横井小楠である兄の時明の妻の清子、
横井小楠の妾であった田上壽賀、それぞれが「尼將軍」であり、
「烈婦」「貞女」であったから激しい摩擦があったにちがいない、とあります。
ただ、家長となった時雄は絶大で、一家のプリンスだったはず。

 叔母さんは吾腹を痛めた又雄さんが、
 沼南先生の御子息と云ふことが、何時までも忘られなかつた。
 又雄さん美枝さんと昔から吾子吾女を呼び捨てにしたことはなかつた。
 つとめて母の位置には立ちながら、自然に卑下して、
 甥の敬二まで吾血筋の者と自分同様
 つとめて卑下さす様に敬二には受取られた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

これは、横井津世子のみならず、この家の女たちの共通の思いだったのでは。
いや、というよりも、厄介になっている立場の清子や壽賀は、
どこかで時雄や津世子に自然と遠慮がちな暮らしをしていたのでは、と思います。
そこに嫁いだ山本みねは、時雄の師であり、同志社の創立者の婦人の姪で、
山本覚馬の娘であり、来の同志社を担う夫妻になるよう期待されていたのでしょう。

 『つせ子は到頭辭しかねて安政三年杉堂から
 沼山津へ横井小楠に之(ゆ)いて事實上の妻になりました。
 小楠四十八歳、つせ子は二十六歳で、親子程違つて居ました。
 妾と云ふ格で、殆ど婚禮の式もありませんでした。
 「先生、先生」と平生言ひ馴れて居たので、
 「殿、殿」と小楠を呼ぶ事が中々出來なかつた、と後でつせ子は述懐しました。
 翌年横井の嗣子時雄を生み、五年の後みや子を生みましたが、
 母のつせ子は「お乳、お乳」と呼ばれ、
 つせ子は「時雄さん、みやさん」と「さん」づけに呼んだものです。』
 (竹崎順子・第七章・一)
 この母親に『さん』づけにされた遺兒が、
 親類縁者の家へ遊びにでも來ると、主人は平伏してかれらを上座に据ゑ、
 殿様の御來光のやうに出迎へたものである。
 親類縁者といつても、いづれも小楠直門の弟子であるから、
 時雄、みや子の背後に先生の俤を髣髴しないわけには行かないのである。
 わけてもこの態度は、横井實學派の衣鉢を繼いだ
 善良なる徳冨一敬において慇懃はきはめたものであつた。
 (前田河廣一郎『蘆花伝』岩波書店、1938年)

徳富蘇峰や徳富蘆花の父にあたる、「善良」な徳冨一敬こそが、
幼い時雄やみや子を「平伏してかれらを上座に据ゑ」た、というわけでした。
そして、横井津世子は、横井子楠の「妾と云ふ格で」結婚したらしい。
「殿」と呼んでいた横井小楠の子どもたちは、母から見ても目上だったのか。
「お乳、お乳」などと呼ばれた、という横井津世子の立場も曖昧で弱く、
複雑な家庭に嫁いだ、山本覚馬の娘であり、
時雄の師であり、同志社の創立者夫妻の姪にあたる、
時雄の妻に迎えられた山本みねは、若い女主人として優位にあったのでは。
そんなふうにも想像させるほど、微妙な関係構造にあったよう。

余談
「弟の夫」がすごくよかったな、把瑠都さんに俳優業続けてと感動しています。
みんなちがって、みんないい、何事も金子みすゞに戻る気がする。
「花子とアン」の再放送の録画を見て、醍醐さんの存在を改めて考える。
蓮さまの事件を取材し、家や身分を捨てて自分の人生を歩もうとしたのでは、
と主張し、ついに一冊を書き上げることになる。
視点人物というわけではないけど、花子のそばにずっといる。
醍醐さんこそ、少女時代の憧れを捨て、職業婦人になり、憲兵と恋愛。
家を捨てて、ああ見えて、自分で人生を切り開き、仕事もできる。
ドラマの中で一番華やかだった女学校時代を、彼女のおリボンが思い出させる。
女学校時代がもっとも楽しかった、ではいけないという戒めとともに。

Tag:山本久栄 

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