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暖炉の光にうごめく影

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、『佳人之奇遇』の話が終わり、
小説は、急に一文が短くなった印象で、緊迫感を醸し出しています。
夕暮れ時に能勢家=横井(伊勢)家を訪問した、敬二=徳冨蘆花が見たのは。

 ある日敬二は暮れて荒神口に往つた。
 如何したのか家の中はひつそりして居る。
 赤ン坊の聲もせぬ。
 次平さんも出て來ない。
 玄關から上つて、次ぎの四畳を通つて、
 襖をあけてベビイ室の六疊に入ると、眞暗だ。
 眞暗な中に、一尺四方の朱色の明が闇黑(やみ)を染めぬいて居る。
 暖爐(ストーヴ)の火光(あかり)だ。
 敬二の眼は其朱色の火に注ぐトタン、胸ははたと鼓動を止めた。
 何かは知らず闇の中に蠢(うごめ)いた。
 最早闇に馴れて來た敬二の眼は、其黑い影を見分くることが出來た。
 其れは五分苅の頭と、束髪の頭である。
 暖爐を中に雙方から頭を突合はして、火の光で何かを見て居る
 ーー若くは見て居る風をして居る。
 其れは四つの手にさゝへられて居る開いた書(ほん)の頁であつた。
 敬二は息がきれさうになつた。
 『おゝ、熱い』
 押潰した様な聲で、敬二はやつと呟きながら、
 隔ての襖をあけて、明るい叔母さんの病室に入つた。
 次平さんと壽代さんが妙な顏をして入つて來たのは、それから十分の後だつた。
 敬二はこみあげて來る胸の塊を嚥(の)み下し下し、
 しばしばふらふらと倒れさうになる足を踏みしめて、學校に歸つた。
 敬二は其夜から荒神口に足を遠くした。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

静かで真っ暗な家の中、暖炉の朱色の光に照らされた、
「五分苅」の次平=土平と壽代=久栄のうごめく影を、敬二=徳冨蘆花は見た。
ともに1冊の本をもち、「見て居る風をして居る」とは、読書をしているわけではない。
鼓動が止まってしまった、驚きとショックは計り知れない。
叔母さん=横井津世子の部屋に2人が追いかけてきたのは、10分も後のこと。
恐れていたことが、現実になってしまったのかもしれない。
敬二=徳冨蘆花の足は、能勢家=横井(伊勢)家から遠ざかってしまった。
しかし、この恋は、思いがけない方向に進んでいくのです。

余談
「西郷どん」、公式インタビューによれば、斉彬公のあっけない死の描き方は、
斉彬公のあまりに突然の、あっけない死の強調だったのか。
斉彬公を神さまのように仰ぎ見、信じている西郷にとって、日本にとって。
西郷も、視聴者も、斉彬公を失って途方に暮れる。
生き急いだ斉彬公、西郷は生命を大事に使うことができるのか。

Tag:山本久栄 

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