おくら=窪田うらの視線

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、恋する壽代=久栄を翻弄する敬二=徳冨蘆花。

 敬二は赤兒室を出て、勝手口から後園に出た。
 荒土の土塀に圍(かこ)はれた長方形の荒れた園に、
 桃は褪(うつろ)ひ、李が白く咲いて居る。
 敬二はぼんやりと雪でも降りさうな黄昏近い空の下に立つて居た。
 次平さんが浮かぬ顏で下りて來た。
 『如何(どう)しても聽かん』
 それは言ひ様が惡いのだ、斯々恁(こ)んな風に云ふて見玉へ、
 と敬二は尚も次平さんを嗾(けしか)けた。
 浮かぬ顏で入つて往つた次平さんは、今度は五分も立たぬに出て來た。
 『如何してもあゝたは違ふ』
 と云つて、半紙に書いたものを敬二の手に渡し、
 『そりば持つて來とつたもン。
 如何しても渡すみやアてちするとば、遮理無理とつて來た』
 と次平さんは云ふた。
 敬二はわなゝく手で半紙を披(ひら)いた。
 次平さんに宛てた走り書きの片假名まじりの手紙で、
 敬二がきれぎれに拾ひ讀みした主意は、
 御勸告により自身も決心したれば御親友の御心が聞きたい、
 と云ふのであつた。
 敬二は夢から夢に渡る心地であつた。
 『如何すツたいな?』
 次平さんは敬二の顏を見た。
 
ここまで来ると、次平=土平がなんとなく気の毒になってしまいます。
自分から強気に出ることはない、敬二=徳冨蘆花は夢見心地。

 『無論俺(わアレ)ア斷わるつもり』
 敬二は云ひ棄てゝ内に入つた。
 四疊に次平さんのテーブルがある。
 敬二は筆を取り上げて、其處にあつた半紙に、
 『小生素(もと)ヨリーー』
 と書きかけたが、肩から覗いて居る次平さんを顧みて、
 『口で返事するけン、門の前に出るごつ云ふちくれ玉へ』
 と云つて立上つた。
 隣の襖が開くと、おくら婆さんが探る様な眼付でぢろぢろ敬二を見ながら、
 『如何おしやす?』
 『無論斷わるつもりです』
 おくらさんはにやりと笑ふた様であつた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

壽代=久栄の気持ちが自分にあると確信するからこそ、断わろうとする。
夢見心地のはずなのに、敬二=徳冨蘆花は直接、拒絶すると言うのでした。
それを、「探る様な眼付でぢろぢろ」と見ているのは、おくら=窪田うら。
孫娘の勝枝=安栄と結婚させたい、と臨む敬二=徳冨蘆花を気にしていますが、
つまりは、時代=時栄の不祥事などもあり、壽代=久栄をよく思っておらず、
敬二=徳冨蘆花を壽代=久栄から奪いたい、という対抗心でしょうか。

余談
「西郷どん」、斉彬になれない久光と吉之助になれない正助の構図に?
これまで「生きる」ことを第一としてきたはずのドラマ、吉之助が入水を選んだ。
蘇生する吉之助だけど、生き直す人生は、また異なるものになるはず。
生きろ、と言われながら、死に近づいていく吉之助なのかな。
そして、それは、自分のためではなくて。
近年、もっとも再評価されたのが久光だと思うので、今後の展開が楽しみ。

Tag:山本久栄 

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