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「勝枝さんの事は嘘ですよ」

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、敬二=徳冨蘆花と壽代=久栄の会話は続く。

 雨がまだぽとぽと落ちて居る。
 巷路は最早鼠色に暮れた。
 敬二は胸の塊を嚥(の)みこみながら、
 『第一あまり突然だし、それにーー』
 『あんたは勝枝に心があると云ふから』
 『馬鹿な』
 言葉は途切れた。

壽代=久栄と勝枝=安栄は従姉妹同士、何か誤解があるのでしょうか。
それとも、叔母のおくら=窪田うらから、何か吹き込まれたのか。
敬二=徳冨蘆花をめぐる、壽代=久栄とおくら=窪田うらの駆け引きみたい。

 暮色はますます巷路の中に濃くなつた。
 敬二は兎に角二三日考へて返事をしようと云ふ約束をした。
 壽代さんは頷いて韤(くつたび)の駒下駄を摩(す)り足に歸りかけた。
 五六歩行くと、敬二は追かけて、
 『勝枝さんの事は嘘ですよ』
 壽代さんは頷いて、やがて其影は能勢家の門を入つて了ふた。
 敬二は熱くなつた額を小雨にうたして、夢を見る心地で門外をぶらついた。
 しばらくして潜りの小門を推した。
 がらがらと開く筈の潜りが開かぬ。
 内から押へて居る様なじわじわとした手答がする。
 同時に蝶番になつて居る戸の隙からフツと紙の玉を吹きかけた者がある。
 敬二は勃然(むつ)として無理に潜りを押開け、
 傍寄つた次平さんに眼もくれずつかつか玄關に上つた。
 玄關にはランプがついて居て、壽代さんが立ちながら門の小劇を見て居た。
 敬二はバアクレー夫人へ賵る花を持つて、直ぐ能勢家を出た。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

壽代=久栄を思っているのに、返事を待たせる敬二=徳冨蘆花は罪深い。
それでいて、勝枝=安栄のことは「嘘」である、とは言うのです。
次平=土平が敬二=徳冨蘆花を門から入れまいとする、「小劇」が面白い。
次平=土平にしてみれば、2人の態度は気に食わない。
また、自分を慕う男2人の「小劇」をのぞく、壽代=久栄のまなざしは蠱惑的か。

余談
ツイッターのつぶやきや、インスタグラムのコメントは、
たとえ有名人の言葉でも、ああ、そういうときもあるよね、そだねー、
そう考える人もいるのねー、くらいに受けとめておけばいいのではないかな。
その人の、そのときの感覚なのであって、それ以上のものではない。

Tag:山本久栄 

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