「大事去矣」

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、春休みが明け、敬二=徳冨蘆花は、
思慕する壽代=久栄の気持ちを知ったからか、前途洋々の面持ちです。

 敬二は白雲に乗つて虚空を度(わた)る氣もちで、
 平凡な協志社第三年第三期の學校生活を愉快にはじめた。
 彼は四圓五十錢の學費で月月やりくつて行く私立學校の三年生である。
 然し彼は遠くの將來には何かは知らず輝くものを望むで居るし、
 近くには現に壽代さんを有(も)つて居る。
 柳櫻をこきまぜた奮都の春は、
 敬二を胡蝶の羽にのせて永久に若い夢幻の國に遊ばせた。

将来は「輝くものを望」み、「現に壽代さんを有つて居る」から、誇らし気でもある。
ところが、桜が散ると同時に、その夢見心地も長くは続かなかったのです。

 然し現(うつつ)の世に住む敬二の夢は覺(さ)まされずには居られなかつた。
 櫻も散つて午後は午前を忘るゝ程日の永くなつたある日の午後、
 敬二が片貝君の室に居ると、窓の外から
 『敬さア』
 と云ふ聲がした。
 頭を出すと、次平さんが眞顏になつて、クンと鼻を一つ鳴らして、
 『大事去矣(だいじさる)』
 と叫んだ。
 敬二の胸はどきりとした。
 『ロングが待つてるンだ。往つて來玉へ』
 片貝君の聲を聞き棄てゝ
 敬二は次平さんを東部の雨天體操場に連れて往つた。
 體操場は空いて居た。
 次平さんの言によれば、敬二と壽代さんの約束した事は、
 已に又雄さんや飯島先生夫妻に漏れ、皆怒つて居ると云ふのであつた。
 何處から漏れたのであらう、と敬二は先づそれを訝つた。
 次平さんは言を進めて、あの壽代は存外よくない女で、
 おくら婆さんの話だが、いつぞや女學校である女生の紙入が紛失した時、
 嫌疑が一番に壽代に落ちた程だ、だから何卒約束を破棄してくれと云ふた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

敬二=徳冨蘆花と壽代=久栄の関係は、すでに周囲に露見していました。
しかも、又雄=時雄も飯島先生夫妻=新島襄・八重夫妻も皆、怒っているという。
おくら婆さん=(八重の姉の)窪田うらの話だから、疑わしいけれども、
女学校で財布がなくなったとき、壽代=久栄が一番に疑われたのだとか。
「君が將來の夫」「吾が未來の妻」の約束は、早くも崖っぷちです。

余談
「半分、青い。」の録画を見直していたら、やはり面白いなあ。
明治村のデート、新聞部の小林くんが「守ります。左耳になります」と言って、
そのとき、律は「誘拐する」「決めてかかる」の英単語の暗記カードを手繰ってる。
もうそれで、鈴愛と小林くんのずれが(わかってるけど)示唆されている。
律も、「鈴愛はお化けのいないお化け屋敷が好き」と決めてかかる。
それはあたっているし、癪だけど、頼もしくて、律だけに許されるレッテル。
秋風羽織を読んで、鈴愛のモノローグになるのもよかったな。

Tag:山本久栄 

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