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「恐ろしい娘」

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、おくら=窪田うらの話として、
壽代=久栄の「嫌疑」が持ち上がり、「約束を破棄してくれ」と言われたものの、
敬二=徳冨蘆花は、決して動揺していません。

 敬二は默つて忠告を聞いた。
 約束の漏れたは困つたが、早晩免れぬことである。
 壽代さんの人物については、今更言新しく悪評を聞くまでもない。
 恐ろしい娘、如何な事でも爲兼ねぬ女、
 敬二は最初から斯く壽代さんを思ふて居る。
 紙入れ一條位、彼女には何でもない、ありうちの事だ。
 敬二は壽代さんを美人とも
 淑良の女とも純潔の處女とも思つたことは一度も無い。
 然し彼は壽代さんが彼を愛して居ることを疑ふことは出來なかつた。
 而(さう)して彼自身壽代さんを愛して居ることを否む事は出來なかつた。
 愛するが故に愛するーー其外に理由はなかつた。
 
いや、敬二=徳冨蘆花による、壽代=久栄の人物像も手厳しい。
壽代=久栄という女は、この小説においては、ファム・ファタルであるのか?
おくら=窪田うらが入れ知恵をした窃盗の疑いなど、どうでもなかった。
ここにあるのは、絶対の愛だけなのでした。

 何事によらず一度心を投げ入るれば、
 往く處まで往かねば安心して轉換が出來ない癖を敬二は有つて居た。
 壽代さんとは、一年近い交際の末やつと契約まで漕ぎつけたのを、
 契約が漏れた、人物がよくない、
 とばかりで阿容〃〃(おめおめ)引下がられやうか。
 加之(それに)忠告者の資格が疑問である。
 如何に次平さんが敬二に親切か知らぬが、あの事のあつた後だ、
 壽代さんに振られた意趣がへしでないと誰か云ひ得やうぞ。

敬二=徳冨蘆花も、読者と同様にか、次平=土平を疑ってもいます。
しかし、次平=土平もまた、引き下がらないのでした。

 敬二が默つて居るので、次平さんは忠告をあらためて懇願の態度をとつた。
 拜む、と次平さんは云ふた。
 果ては雨天體操場の板の間に、跪いて俯伏し、
 敬二が壽代さんを思ひ切る様にと高らかに祈りはじめた。
 敬二は呆氣にとられて、板敷に俯伏した從弟の盆の窪を瞰(なが)めて居た。
 彼は一種の可笑味(おかしみ)を感ぜずに居られなかつた。
 從弟が漸く擡(もた)げた顏の涙を見た時、
 敬二は其涙を信ずることが出來なかつた。
 然し心弱い敬二は、すげなく從弟の忠言を斥くる勇氣がなかつた。
 破約の事は兎も角も、黑田の婆さんの言の眞僞も確めねばならず、
 一應會つた上で、と遁(に)げた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

跪いて、涙ながらに婚約解消を求める、次平=土平の態度には、
さすがの敬二=徳冨蘆花は、疑いながらも「斥くる勇氣」もなかったのです。
さらに、次平=土平は次の行動に移ります。

余談
「半分、青い。」の録画を見直していたら、やはり面白いなあ。
鈴愛の将来を心配する晴さんに、ウーちゃんは、
鈴愛は、面白いから、かぐや姫みたいに求婚者はいっぱいだと言う。
でも、最終的にはきっと、鈴愛は織姫で、彦星は1人しかいない。
秋風羽織=くらもちふさこは設定時代に合わない、と疑問も呈されていたけど、
案の定、律のお母さんの和子が律に読ませたものだった。
このドラマ、種明かしは数回後になることが多い。
すぐにあれが、これが、と騒ぎ立てる視聴者への皮肉のような気がする。

Tag:山本久栄 

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