南禅寺

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、壽代=久栄は「惡魔」「凄い女」なのか。
敬二=徳冨蘆花は、壽代=久栄に会わなければなりません。

 飯島先生夫妻が歸ると、やがて潜戸があいて紫の袴が入つて來た。
 壽代さんは今日會見の事を知つて居るが、場所がきめてなかつた。
 約束一條が漏れて以來、荒神口では人目が瞪つて居るので、
 敬二はもとより次平さんすら壽代さんに咡く機會も紙片を手渡す機會もない。
 敬二は次の間に居る壽代さんの耳に入る程の聲で、かあやんに、
 留田君が來たら先に南禪寺に往つて居ると云つてくれ、
 と約束もない人の名を云ふて出た。

かあやん=寿賀に嘘をつき、南禅寺で壽代=久栄に会おうというのです。
そこにのこのこと付いてくるのは、例の次平=土平でした。

 敬二は牛蝨(だに)の如くついて離れぬ次平さんと、御幸橋を渡り、
 鴨河の柳の蔭をぶらぶらあるいて南禪寺に往つた。
 一帯靑松路不迷と山陽の歌ふた松並木の間を爪尖(つまさき)上りに歩いて、
 五三桐で芝居にする山門に來た。
 山門下に六十餘の爺さんが茶店を出して居た。
 二人の靑年は縁臺に腰かけて、しばしば
 だらだら阪の下の下り切つた處に口を開いて居る第一門の方を見ながら、
 茶を飮むだり、無駄話をしたりした。
 中々來ない。
 鳩にもからかひ飽きて、直ぐ下の池の滸(ほとり)を歩いた。
 お稲さんを葬つたのは一月の末だつたが、
 最早池の畔の苔蒸した老樹の櫻は悉皆(すつかり)葉になつて、
 茶色の池水には枯れ腐つた茎の間にぽつぽつ小さな巻葉が浮いて居る。
 禪寺の春は老いて、時々思出した様に溜息をつく松風に和して、
 何處ともなく春蟬の鳴く音が聞こえた。
 二人は少し門の下の方へ下りて見、また山門に歸つて見た。
 來ない。
 松の影が大分長くなつて來た。
 最早駄目だ、と敬二は思ふた。
 途端に一輛の車が此方へ近づいて來るのが見えた。
 茶代を次平さんに賴んで、敬二は立上つた。
 小坂の下に車が止つた。
 紫の袴が下り立つと、空色の洋傘がぱつと開いて、
 壽代さんは此方へ上つて來た。
 敬二は壽代さんと目禮を交はし、
 默つて打連れて山門の少し上から南手の天授庵に入つた。
 敬二は納所に墓参の挨拶をして、小門を入り、
 石甃(いしだゝみ)を歩いて、庭に面する庵の木階に腰かけた。
 壽代さんも五尺ばかり離れて腰かけた。
 次平さんは角の方から一寸顏を出したが、
 敬二が睨むだので頭を引込めた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

紫の袴姿、洋傘をさした壽代=久栄は、ようやく現れました。
この場面などを読むと、ああ、この作品は京都文学でもあるのだと思います。

余談
今期は、全体的にコメディタッチの軽いドラマが多いような気がする。
長澤まさみさん、吉高由里子さん、波留さんは、振りきった演技を要求されてる。
「コンフィデンスマンJP」は、だまされる側に事情が垣間見えるし、
「正義のセ」は、コメディの後半にほろり、とメリハリ。
(事務官を振り回す吉高さん、映画ではできる事務官。演技のバリエーション。)
軽さの一方で、「シグナル」「モンテ・クリスト伯」の重さも光っている。
「あなたには帰る家がある」は、原作はもう何年も昔のもの。
不倫もので、恐い妻が出てくる(夫も)、タイトルが長い、ということで、
何となく、以前の「あなたのことはそれほど」を髣髴とさせる。
(「逃げ恥」以降、タイトルを略されたい、という願望を感じるTBSドラマ。)

Tag:山本久栄 

四季の花時計
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
FC2カウンター
プロフィール

もも

Author:もも

カレンダー
04 | 2018/05 | 06
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
月別アーカイブ
最近のコメント
最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索