「不良学生」

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、破局の後、敬二=徳冨蘆花の生活は乱れた。
次平=土平にあたるだけでは、当然、すまなかったのです。

 京洛の春老い、相國寺の靑葉の月に夜は子規(ほとゝぎす)度(わた)り、
 永い晝(ひる)は敎場で居睡が出る頃となつた。
 色々に心を使つた敬二は、學課は兎角留守がちで、
 第一期の『學才家』は頗る如何はしい成績を示した。
 沈田先生の歴史の敎場と、前二年の少年時代に聖書課で親しみ
 近くは孑(ぼう)ふりの踊つた様な右上りの小さな學者らしい文字から成る
 路加傳註釋原稿の翻譯で親しむだ額のひろい
 眞面目に頓狂なラールニングさんの修辭學とはさもなかつたが、
 Geometry では言語道斷の振舞をした。

沈田=浮田和民やラールニング=ラーネッドの授業は、何とか問題なく、
しかし、「頗る如何はしい成績」「言語道斷な振舞」をしたという。
そうした反抗の仕方も、敬二=徳冨蘆花らしい。

 次から次へ火花の如く幻象(まぼろし)の閃めく敬二の頭腦は、
 五分間の注意を集中するにも、無上の苦痛を感じた。
 一氣に暗中の飛躍を好む短氣で高慢な彼は、
 論理の階段を一階づゝ確實に拾ふ謙遜を缺(か)いて、
 而して之を悔いなかつた。
 數學には彼は匙を投げて居た。
 彼の同級は時間の終りの鐘が鳴る迄、
 黑板に問題の解答を書いたり消したり一時間の立往生をする敬二を見た。
 隣席の大樂(たいらぎ)君が見かねて、窃と敬二に説明をしてくれたりした。
 心易い佐藤先生は、敬二にはフオミユラの暗誦などさして、
 複雑な問題はいつも他へ廻した。
 『英語だから君は誤魔訛していけるんだ』と山本君は哂つた。
 所持の幾何學の包紙に『腦充血醸造之活機』と飛龍の様な筆跡で書いて居た
 詩吟が得意の薄痘痕の尾形吟次郎君と共に
 敬二は『サンキラヒ』の兩大關であつた。
 前期から陸軍の下士上りが來て、徒手體操を敎へた。
 敬二は一度其馬鹿な下士の爲に衆目環視の中で番號を呼ばれて、
 不活潑を嘲られてから、體操に出るのがいやになつた。
 去年の夏以來脚がだるく、指尖(ゆびさき)で壓(お)せば少し凹むだ。
 ペリー校醫に見てもらつたら、脚氣の氣味だと云はれ、
 Mr.Tokuno is excused from running in the drill. と書いてくれた。
 單に駈足を免ぜられたのであつたが、
 敬二は其紙片を英語のよめぬ下士に突きつけて、
 それから體操には全然(まるで)出なかつた。
 各級には金曜日の夜毎に大抵級の祈禱會がある。
 第一期には缺(か)かさず出て祈つたり感話をしたりした敬二は、
 第二期から出なくなつた。
 日曜の説敎にも出ずして、片貝君の部屋で小説を讀んで居る事もあつた。
 果ては朝の禮拜にすら出ないで居ることがあつた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

絵に描いたように「鬱憤」を抱え、ジレンマのままに塞ぎこむ、敬二=徳冨蘆花。
宗教的な祈祷会や礼拝から距離を置くのは、又雄=時雄への抵抗か。
片貝=磯貝由太郎(雲峰)とは、相変わらず親しくしています。

Tag:山本久栄 

次平=土平の災難

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、敬二=徳冨蘆花は「鬱憤」を抱えています。
言うまでもなく、無理に壽代=久栄への恋を断念したためです。
家父長的存在である、又雄=時雄に「無條件降伏の態度」をとったから。
そのどうにもならない「鬱憤」のはけ口は、次平=土平でした。

 敬二は又雄さんに對し無條件降伏の態度をとつた。
 然し彼は其代償を何處かに取らずには濟まされなかつた。
 彼は鬱憤の安全辯として手頃の次平さんを選んだ。
 彼は一切次平さんに口をきかなくなつた。
 次平さんが協志社に來ても、敬二は取合はなかつた。
 能勢家に往つて長加部君と戯談(じやうだん)を云ひ合ふ時も、
 次平さんが言ひかくれば敬二は傍(わき)を向いた。
 次平さんは悶え、詫びて見、説明を求め、
 追從輕口を云つて敬二の不快を解こうとしたが、
 敬二は次平さんに對して心も口も堅く戸を立てゝ了ふた。
 已むを得ずして一言でも口を敬二がきけば喜を顏色に表はし、
 澁い顏に復(か)へれば涙ぐむ次平さんの萬更
 詐(いつはり)とも見えぬ容子も、敬二の硬い心を融かすに力がなかつた。
 彼は次平さんを苦め得る吾力を自覺して以來、
 最早復讐の必要がなくなつた後までも、尚ボイコツトの態度をつゞけた。
 
敬二=徳冨蘆花の機嫌をとろうとしても無駄、次平=土平には気の毒なくらい、
敬二=徳冨蘆花は、彼を「苦め得る吾力」を行使し続けます。

 壽代さんには振られ、敬二には無言の責苦を浴びせられ、
 長加部君にはおくらさんの寵を奪はれ、
 それでもまだ何か待つものでもあるやうに、
 次平さんは毎日つまらない日を荒神口に送つて居た。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

次平=土平を利用したおくら=窪田うらは、新しい青年の登場によって、
もはや次平=土平に価値を置かず、気持ちを移してしまったということでしょうか。
それでも、次平=土平には、能勢家=横井(伊勢)家しか居場所がない。

Tag:山本久栄 

プリンスアイスワールド2018 東京公演

さて、プリンスアイスワールドの東京公演が明日から始まります。
出演予定だったフゲニー・プルシェンコが、怪我のため、欠場となっています。

 プリンスアイスワールド2018 東京公演
 2018年7月13日~16日、東伏見・ダイドードリンコアイスアリーナ
 本田武史/町田樹/織田信成/小塚崇彦
 安藤美姫/村上佳菜子
 坂本花織(7月13・14日)/樋口新葉(7月13・14日)/三原舞依(7月13・14日)
 田中刑事(7月15・16日)/本田太一(7月15・16日)/本田望結(7月15・16日)

高温が危惧されている連休のアイスショー、リンクは別世界でしょう。

Tag:フィギュアスケート 

おくら=窪田うらの「ねちねち」した喋り方

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、若い2人の破局の背後にいたのは、
能勢家=横井(伊勢)家を牛耳る、おくら=窪田うらでした。

 南禪寺一件の時敬二が次平さんと出て往つたあとで、
 『壽代のお臀が落ちつかなかつた』とおくら婆さんの言ふのを聞けば、
 問ふまでもなく南禪寺の幕切れを
 此婆さんの書いたものと思はぬ譯には往かなかつた。
 おくらさんは次平さんを使ひ、又雄さんをつゝいて、
 敬二と壽代さんの間を裂いたが、まだ安心が出來ぬと見え、
 敬二の顏を見る毎に、彼の探る様な眼つきでぢろぢろ敬二を見ながら、
  『敬さん、ソレ俚歌(うた)にも、
     人の戀路を邪魔するやつは
        蟲に喰はれて死ねばよい。
  と云ふさかい、敬さんもわたしを恨んでお出やろ』
 と大きな口をねちねちさせて、にやりと笑ふた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)

下品な悪口まで言って、おくら=窪田うらは、壽代=久栄を貶めていたよう。
敬二=徳冨蘆花と壽代=久栄が別れても足りない、執念深さ。
おくら=窪田うらの喋り方が、「大きな口をねちねちさせて」とあるのは、
お多恵=新島八重の「ねちねちした會津辨」と、重なります。
やはり、この姉妹は同質な、共犯的関係として、語られるのでしょうか。

Tag:山本久栄 

おくら=窪田うらの「全盛」に

徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」、長加部次郎=曾我部四郎の同居は、
おくら=窪田くらに辟易する、能勢家=横井(伊勢)家の女たちを喜ばせました。

 伊豫以來の奮馴染の歸參は、
 味方の少ないおいよ婆さんとかあやんを喜ばせた。
 然し此眞卒な靑年も次平さん同様
 おくら婆さんの網にかゝるに造作はなかつた。
 長加部さんは、半分黑田家の有(もの)の様になつた。
 敬二は能勢家に往く毎に、二人の昔の婦(をんな)の霽(は)れぬ顏を見た。
 おくら婆さんはいよいよ全盛であつた。
 (『徳冨蘆花集 第11巻』日本図書センター、1999年)
 
今治時代から親しい青年の登場に、味方を得たとばかりに喜んだ、
おいよ=横井清子やかあやん=寿賀でしたが、それもほんの一時のこと。
長加部次郎=曾我部四郎は、黑田家=窪田家の一員のようになってしまった。
長加部次郎=曾我部四郎もまた、おくら=窪田うらの「網にかゝ」ったのです。
「婆さん」ばかりの能勢家=横井(伊勢)家の女たちの、序列構造です。
ほかならぬ、敬二=徳冨蘆花と壽代=久栄の仲を裂いたのも、
今や「全盛」の、おくら=窪田うらなのでした。

Tag:山本久栄 

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